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 ハマリたての頃に書いた天国の死闘、その後偽造話。
 閻魔と鬼男それぞれの誤算。
 あれがすべての始まりだったりしてもいいじゃないか、そんな妄想。
(鬼閻・・・というよりは鬼→閻?)

2008.8

×××××××



「…どこまで見抜いてらしたんです?」
「うん?なんのこと?」


 …はぐらかす気か、この大王イカめ。


 始終ダラダラと死者を振り分ける大王に叱咤しつつ、二人がようやく本日最後の死者を見送ったのがついさっき。
 溜まりに溜まった裁きを終えて、閻魔庁は実質上の夜を迎えた。



 今日は、本当にとんでもない一日だった。
 不祥事一歩手前で、なんだかんだで丸く収まったこの騒動。
 地獄行きの亡者が天国に侵入するだなんて前代未聞だ。少なくとも、自分が就任したここ数百年の中にはこんな事態はなかった。


 前科10犯のゴメス。通称悪ゴメス。
 この騒動の元凶となった人物はあの後、さらに一悶着の末なんとか血の池に収まってくれた。
 彼のあの無茶な行動の動機となったものは、それはあの強面な容姿や口調から感じられる威圧感に反し、切実で純粋な柔らかな願いだった。
 『一目自分の母に会いたい』
 それは、確かにささやかな願いではある。
 だが、そもそも一罪人相手の願いを聞くなどというマニュアルなどこの場所には存在しない。
 あったとすればそれは特例中の特例だろう。


 ……もしも彼が『正式に裁かれた後』に、母親に会いたいがために地獄から逃亡を計っていたとしたら。
 …その罪はより重く幾層にも増し、彼にふりかかっていたに違いない。


 しかし裁きのあの場所は、どこまでも中立だ。
 閻魔帳に押印し、扉を潜り、鬼男達のような冥府の番人…人成らざるものの手で、その扉を閉めるまでは人として在ることが許される最後の砦。
 そういう点で見れば、あの時点でまだゴメスは正式な判決が下されていなかった。


 ………そう。


 結果さえ見れば……まあ、ひどく乱暴かつ不器用な手段ではあったが、あれは確かな更生の道しるべだった。

 彼の罪が最小限で済む、多分最善の手段。


 あとは彼があのまま大人しく血の池に浸かっていてくれさえすれば、そう永い時間もかからずその魂に刻んだ罪を昇華できるハズだ。



 ……問題は。
 この目の前の男が、どこまでを見据えて動いていたかだ。




 聞きたい事は山程ある。



 セーラー服の入手経路、変態の真偽。
 貴方が一人称に『オレ』なんて使うの初めて聞きましたよ、とか。


 なんせ相手は冥府の王だ。
 爪を刺すどころか暴言を吐いたのも初めてであったし、ついでにいえば閻魔をアンタ呼ばわりしたことすら鬼男にしてみれば初めてのことだった。
 ふと気付く。
 なんてことだ初めて尽くしではないか、もう幾十年も共にあったというのに。


「ところで鬼男くん」
「…なんです?」
「君がここに来て、もうすぐ一世紀と半分になるよね」
「そうなりますね」
「君は歴代でも稀に見る優秀な秘書だったからね、実は上から是非我が部署に!ってお声が掛かってるんだよ。昇進ってやつだね。今より待遇良くて安全な仕事だよー?今日みたいなことはまずないよー!……でもさ」


「・・・今日の不祥事がバレたら…大変だよね?」


 含みをもたせたわざとらしい笑みに、苛立ちが芽生えた。
 重ねて言うが、自分はこの上司に対して畏怖や尊敬や敬愛の念は抱いても、このような俗的な感情を思ったことは一度足りともなかった。

 ……昨日までは。


 なれない感情に、声も自然と不機嫌さを帯びる。
 刺々しい口調で、話をうながした。


「…何が言いたいんです」
「つまりさ。君が今日の事を黙ってくれてたら、全部丸く収まるんだけどなぁ…ってことなんだけど。どう?」


 なんなんだ。その、問うているくせに肯定を確信した笑みは。
 その穏やかな口調の中にある絶対の自信を見て、ふと鬼男の中に過ぎったのはひとつの確信。


 ……閻魔大王の歴代秘書の任期は、他の役職のそれよりも遥かに短かかった。
 それは、人の行く末を割り振るという過酷な立ち位置故の摩耗の激しさを考慮されてのことかと思っていたが…。


 原因はまさかこいつか。
 そういうことなのか?



 どういった意図があるかはしらないが…それまでどこまでも平穏に業務をこなしていた閻魔大王が、こうして急に手の内をさらけ出し突飛な内面を見せはじる。
 それに困惑した鬼が次々と代替わりした?
 あるいはそう仕向けた?



(――ああもうわけがわからない!!)


 とりあえず一言いわねば気が済まない、と鬼男は重い重い溜め息をつき口を開いた。

「閻魔大王」
「ん?」
「…………今までお世話になりました」
「…流石鬼男くん。話が分かるね。こちらこそ、今までありがとう」


「…そして…はじめまして阿呆大王イカ。僕は今日より貴方の秘書として仕えさせていただきます鬼男と申します」
「……へ?は?いやあの、ちょっと…えぇ?!」


 崩れた余裕。
 かいま見えた明らかな動揺に便乗し、畳み掛ける。

「ど・う・ぞよろしくお願いしますね?これからも」

「……うん……よろし…く?」


 文句ないな?と爪をちらつかせて声を低めれば、本日一番の間抜け面がぶんぶんと縦に揺れた。
 よろしい。偉そうに呟いて爪をしまう。
 どさくさに、先ほど閻魔がちらつかせた志願書類を切り刻みながら。


 これはよほど予期せぬ事態だったのか、目の前のイカ大王が小さくぶつぶつと唱えているのが聞こえる。
 よろしくお願いされちゃったよおかしいな。パターン外だ。これ何て青春漫画?
 なんて言葉を、ぼそりぼそりと鬼男の耳が拾う。

 …おそらく、これこそが彼の素なのだろう。
 唸りながら首を捻る彼はもうただの、無駄に体の細い一人のおっさんだ。
 ここ数百年見ていた姿と何も変わらないはずなのに、何故だかひどく小さく見えたけれど。


「…アンタ、なかなか良い性格してますよね」
「…君こそ。まさかの辛辣さにびっくりだよ…あんなに爽やか好青年だったのに」
「勤務中でしたし」
「私だってそうだよ」


 だって、冗談じゃない。
 自分はこうみえて負けず嫌いな自覚がある。ここまでのし上がったのはプライドがあればこそなのだ。
 納得がいかないまま物事を捨て置くだなんてできる性分はしていない。
 ついでにいえばこれしきのことで折られる程、細い神経を持ち合わせていない。


 ついでのついでにいえば、腹立たしいし呆れこそはしたが、根底にある尊敬だとかそういった感情は未だ消えてはいないのだ。


 むしろ。



「僕、今日初めてこの仕事にやりがいを感じました」
「…オレはさっきのやり取りに何だか今後の関係図を感じちゃったよ…」


 がくりとうなだれるその肩を、強く握る。

 今日見知った真実へ、はじめましてのご挨拶。
 皮肉には皮肉を返してやろうじゃないか。
 ずいっと顔を近付けて、笑いかける。不敵に、思うままの笑みで。


「…僕は、ただのオレオレイカ大王な貴方も割と嫌いじゃなかったので」
「……そ・・・うなんだ」
「はい」
「それはまた…」
「何ですか」
「………うーん」


 逃げの言葉を探しているのか、うろうろと泳ぐ目線が…悔しい。
 線引きに応じたその他大勢と、同じ枠にくくられてたまるものか。
 鬼を、あんまりなめるなよ?

 ぎりぎりと締め上げれば、痛い痛いと悲鳴があがる。
 いいから思ったままをそのまま言えばいいんだよ。


「いや…うん…オレこういうパターンは初めてだからなぁ……これが正しい返答か、わからないんだけど…」


 困ったように微笑む。



「ありがとう、ね」

 苦笑に近い、けれどより本心に近い笑み。
 一瞬、返す言葉が浮かばなかった。


「……まあ…嫌いじゃないですが、だからといって愛想尽かされないようせいぜい頑張って下さいね」
「ええー・・・だってそんな今更でしょー」
「ええ、全く今更ですね」


(そう、今更なんですよ全て・・・でも)


 遅いということは何も悪いことではない。
 穏やかに終わる一日。
 目に見えない始まりの音は、例え今更でも、今確かにここにあるのだから。


「とりあえず、明日からも宜しくお願いしますよイカ大王」
「お手柔らかにね、辛辣秘書くん」


 胸に宿ったそれは、今更遅いふたつの誤算。



■END■■
 

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自己紹介:
名:べに釦(べに ぼたん)
性:凹
血:B
誕:聖チョコ祭り前日

・本能のままに生きる20代の社会人(斜怪人?)
・基本的に人見知りチキン
・下手の横好きな文字書き。落描きもする
・マイナー/雑食/熱しにくいが火が点くと一瞬。そして永い
・ギャップもえ。基本的に受けっ子さん溺愛
・好きキャラをいじめ愛でるひねくれ者
・複数CPの絡むとかもう大好物。らぶ!
・設定フェチ。勝手に細かい裏設定を偽造して自家発電

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