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※はじめましての方は『※はじめに』をご一読下さいませ(心の自己防衛)


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『こうやって少し屈折しているぐらいが、きっと自分にはちょうどいい』


 ※妹太七夕企画「Seventh Star」様に(恐れ多くも)参加させていただいた作品です
 ※展示していただいていた小説の誤字訂正版です…(無計画丸出し。恥ずかし!)
 ※太子を好きすぎる堅物生真面目小野妹子
 ※素直じゃない癖になんか恥ずかしい小野妹子


以上、がってん承知の助な方は続き~よりどうぞ。



++++++++++++++






【願いの在処】


 本当はきっといつもそう思っていて、ただ、その事に自分で気が付けていないだけなのかもしれない。
 だからこそ、それが唐突に衝動的にやってきたかのような錯覚を起こしてしまうのだ。



「……願い事を短冊に……ねぇ」


 織姫と彦星。
 一年に一度の逢瀬。
 天の川伝説。


 太子が紙芝居付きで馬鹿丁寧に説明した話によると、七夕という行事は……まあ要約すると、自業自得カップルの再会の日に便乗してどさくさに願いを叶えてもらおうという日らしい。

 太子にそれ告げると、お前は風情がない上に薄情だ!と酷く憤慨されたけれど、太子にだけは風情うんぬんを指摘されたくはないと思う。本気で。


「っていうか僕が薄情なら、世の中の人間八割は情無し者だろう。全く……」


 先日、問答無用に押しつけられた短冊はやっぱり赤で、なんだかんだいいつつそれを受け取ってしまった。
 いつもながら…いったいどこから仕入れて来るのだろうか、あの全般的に無駄な知識達。
 悪態をつきながら、それでも真面目に思考を巡らせる。


 時代を無視した彼の博識に、それでも律義に付き合う自分は十分にお人良しだろうと妹子は思う。
 だからこそ今、仕事を早めに切り上げこうして縁側で唸る羽目になっているのだから。


「そもそも…星に願いをって柄じゃないんだよ僕は…」


 ひとしきり考えを巡らせ、そうして悩みはまたふりだしに戻る。
 当日になっても、未だ墨の痕跡がない手元の赤。
 夕暮れも過ぎ、太子に指定された提出期限の時刻も間近。流石にそろそろ焦ってきた。


(……願うことがないわけでは、ないんだよな。勿論。けれど…)


 浮かぶことすべて、どうにもしっくりこない。

 志は常に、この胸にあるのだ。
 けれどそれは望みではなく、絶対的な目標。
 そもそも昇進や意識向上など仕事について書くのは…いくら自分が生真面目の部類に入る人間とはいえ、流石にこれは違うだろうと思うわけで。

 ……もういっそ当たり障りのない事柄を書いて済ませてしまおうか…とも思ったが、この短冊をみているとなんだかそれも気が引ける。



「きっと、馬鹿みたいに張り切って作ったんだろうしなぁ…あの人」


 ああもう!と頭を抱えてばたんと体を後ろに倒す。
 ……たかだか言い伝えになにをこんなに真剣に問答しているのだろう、自分。
 げんなりしながら宙を仰いだ妹子の目に、惜しげもなくと広がる光の海が映った。



「うわ、いつの間に…」



 悩んでいる間に、紅は終わり空は群青の支配下に切り替わってしまったようだ。

 数多の星。
 天に輝く願いの象徴。
 普段あまり意識することはない無数の点も、今日という日を介すとひどく特別に見えてくる。


(まあ…確かに、祈りたくもなるよなぁ)


 人は手に取れないものにこそ、願い焦がれる。
 手が届かないからこその、神聖視。



 それは、きれいなきれいな、導きの光。


「……………」


 そこまで考えてふいに脳裏に降ってきたのが、青ジャージをまとった男の腹立たしいぐらいに眩しい笑顔だった。
 不本意過ぎる。
 ……散らばる光の粒に重ねるのが、なんでアレの面影なのか。
 そんな自分自身に何だかもう、呆れの溜め息が出た。


「……あああ…もう駄目だ僕の感性…すっかり狂わされてるよ…」


 よりにもよって、星までもを彼に繋げてしまうとは思わなかった。


 ……自分は、彼に対して聖人だとか貴族だとかそんな変な神聖視をおしつけたいわけでは、ない。
 太子は太子。そして彼は、人間だ。
 彼が、どうしようもなく馬鹿で阿呆で奇想天外生物であることも。
 頑固で短気な負けず嫌いで融通がきかないことも。
 そして、どうしようもなく国を愛している馬鹿であるということを自分は身に染みて知っている。


 ……ただ、それをも包んだ上でなお、彼に光を重ねてしまう自分がいるのだ。


 外見の優美ではなく、その審美眼、とでもいおうか。
 心が澄んでいるから、とてもきらきらと物事を見つめられるあのまなざし。
 そしてその反射効果で、些細な物事も、煌めく一瞬へと変換してしまうあの輝き。


 その、まっすぐさ。
 彼が眩しく見える最もの要因は、あの心の在り方にあるのだと思う。
 …あまり認めたくないのだけれど、そういう意味で彼はひどく綺麗なのだ。


(…なんて、ね。……星をみて太子を連想するってのも、星にしてみればきっと失礼な話だろうな)


 星は星。
 太子は太子。
 わかっている。

 だから今導いた解を願うべきは、夜空にではないのだ。

 堅物な自分は悟っている。
 きっと、あの小さくつぶらな星々がこの願いを叶えてくれるわけではないこと。



(それでも何故星に願いを告げるのかといえば、それは……)




「………ん?」


 ふいに、星空に影が差した。
 もしやと思い目線を動かすと、視界に入るのは案の定なあの人物。


「……げ。出た!」
「出た、とは何だよ人をお化けみたいに!」
「お化けって…それはお化けに失礼です太子」
「いきなり暴言?!」


 ぷりぷりと腕を振り上げて、星を背にこちらを見下ろす青ジャージ。
 倭国の摂政、聖徳太子。

 相変わらずのオーバーアクション。
 逆光でよくは見えないが、きっと唇を馬鹿みたいに尖らせてるに違いない。


「なんだよもう!約束の時間間近だってのに、芋だからといってゴロゴロ転がってやがったくせに!私との約束すっぽかす気かこのポテト!しかもその上暴言って…!」
「誰が転がる芋か!…っていうか、見てたんですか?!どこから見てた!!」

 バッと体を起こしながら問うと、なんか短冊片手に縁側に腰掛けて唸り出した辺りから…などといけしゃあしゃあと答えて、不法侵入者は当たり前のように妹子の隣に腰を下ろす。

「…ほぼ全部じゃないですかそれ…!」

 いたたまれなさにがくりと肩を落とした。
 …接近に気付けないなんてなんたる不覚だ、情けない。


「まあまあ。悩める芋も面白かったぞー?……っていうかお前、随分苦戦してるみたいだなぁ」
「…ええ、まあ…」
「難しく考えないで本能でいっちゃえばいいんだぞこういうのは。…それともまさか…本気で願い事が品切れ中なのか?妹子」
「…そういうわけでは……ただ、しっくりこなかったんですよね、どれも。けど…」


 言葉を切り、星を仰ぐ。
 そうして再度、視線を隣に戻す。


「……ついさっき。願いなんて実はとっくに決まっているのにそれに気がついていなかっただけだ、ということに気付きました」
「…は?気が付いて気が……え?何だって?」


 気付いてしまえばもう。まるで当たり前のように、用意された隙間にすとんと落ちたその答え。

 緩む頬を堪えつつ、目の前の人物を見つめる。
 わざとまわりくどい言い方で告げた自分の言葉を、意味が分からんと首をかしげながらも噛み砕こうと悩んでくれているその姿を。


「……無理!…ぬっさりだ…皆目検討がつかん…」
「ぬっさりって…それってまさかさっぱりのことですか太子」
「そうとも言うな。もういいからさっさと答えを明かせ!つーか短冊さっさと書きんしゃい!!」


 どこから取り出したのやら、筆と墨とをぐいと押しつけられる。
(…そんなに期待されると答えにくいんだけどな…逆に)


「…はいはい、わかりました。じゃあちょっと背中借りますよ」
「…って…ちょ!こそばゆいんだけど!!」
「耐えてください」


 その貧相な背中を机代わりにさらさらと筆を走らせる。
 無論、彼が背後をとられることを実は苦手としていることなど承知の上で。


「この横暴芋!床で書けよ!!」
「だってほら、一応仮にも摂政な太子の背中で書いたほうが、床より御利益ありそうでしょう?」
「…何かまた馬鹿にされた…」
「褒めたんですよ。……はい、書けましたよ」
「どれどれ!よーしなになに……って…………は?」


 差し出した短冊をまじまじと見つめる太子のその期待に満ちた表情が、みるみる不満に陰っていく。
 それは面白い程予想通りの反応だった。


「…おま…『現状維持』ってお前……何だよこの夢のなさは…!!何か他にもっとこう…あるだろ?!」
「リアリストなんですよ僕は」
「それだったらもっと…官位昇格~とかさ…」
「自分でもぎ取れるものを願っても勿体ないでしょうが」
「……何だその自信…!堅い…頭が堅すぎ小野妹子!!真面目過ぎて面白くない!!」
「あーはいはい面白くなくて結構。そんな堅物で頭が堅い僕が今から珍しいこと言ってやりますから良く聞いといてくださいよ」


 堅物な自分が真面目に言うのだ。
 だからこそこの願いは贅沢で。
 それでいて、切実だ。


「僕はね、こうして太子に振り回されて奔走する慌ただしくも馬鹿げた日常が割と嫌いじゃないんです」
「え。……い、妹子?」

 この他愛のない瞬間が、ひどく愛しい時間になり続いていく。
 そんな、かけがえのない日々。


「…そんな毎日がこれからも維持されればもう、言うことなしに幸せなんですよ」


 赤い短冊を掲げて、星にかざす。


「だから僕は、それを自分で叶えるためにここに願います」


 照れを振り切るように言い切って、ちらりと隣に目をやる。
 こちらを凝視したまま固まる太子の頬は、星明かりですらわかるほどに短冊色だった。



「……何だよ…その新境地な変化球デレは…!」
「僕にしては頑張った方でしょう?」
「頑張ったとかいう次元じゃない…!これもう前言撤回だよ…何そのロマンティックさ…むしろ逆に恥ずかし芋…!」
「う、うるさいですよっ」
「牛飼いっ!」

 べしんと指で額を弾くと、わけの分からない悲鳴と共にズデンと床に転がった。
 ああいけない。恥ずかしいという自覚があるので、思わず手が出てしまった。


「……っ、おま…加減というものを知らんのか…!!」
「すいません、つい」


 大丈夫ですかと覗き込むと、おでこを抑えてふるふると呻いているその目尻には水溜まり。

(…あー…全くもう)


 湧き上がるのは面倒臭さと申し訳なさと、その他色々の感情。
 気がつけば、叫ばれる文句を遮るようにその唇を塞いていた。


「………ここはちゅーの場面じゃないだろう」
「……すみません。錯覚を起こしました」
「何のだよ?!」

 星あかりのせいか、涙目の中年親父が可愛く見える錯覚を起こしてしまったもので。
 …とは言えずに、誤魔化すように曖昧に笑って、その体を引き起こし先ほどの定位置へ戻る。
 引いたその手は重ねたままで。


「…まあ……来年はもうちょっと気の利いた言葉もちゃんと書きますよ」
「…言ったな?よし、じゃあ来年までの宿題だぞ!」
「はいはい」


(そう。こうして隣で笑っていてくれればもう、及第点なんだ)


 漕ぎ着けた未来への約束に、互いに笑う。


 改まって口に出すのは照れくさいから、と。
 遥か彼方の光の残像…祈りの星を、願うべき相手への中継役にするような罰当たりな自分。

 けれどこうやって少し屈折しているぐらいが、きっと自分にはちょうどいい。


 本当はいつだって願っている。
 要するに。
 本当どうしようもなく、貴方が必要。



END



++++++++

 妹子は、良くも悪くも太子に対してとても『真面目』です。
 真面目に太子を好いてます。
 そっりゃあもうこっ恥かしいぐらいに。
 要するに七夕にかこつけて、結局いつもどおりの結論に至っただけ…これじゃただの妹子の太子惚気だよ!(笑)
(↑素直じゃない癖に男前)

 お蔭様で今年はきらっきらの妹太が、無限に広がる大宇宙!そんな素敵な七夕でございました。
 うっとりするほど素敵な妹太企画でした!
 素晴らしい機会を、出会いを本当に有難うございました…!!



…所で、小説のタイトルは果たしてコレであってるんだろうか…タイトルは最後まで2択で迷ってたんですが(←手元の控えをうっかり全消ししちゃった大馬鹿)
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女性
自己紹介:
名:べに釦(べに ぼたん)
性:凹
血:B
誕:聖チョコ祭り前日

・本能のままに生きる20代の社会人(斜怪人?)
・基本的に人見知りチキン
・下手の横好きな文字書き。落描きもする
・マイナー/雑食/熱しにくいが火が点くと一瞬。そして永い
・ギャップもえ。基本的に受けっ子さん溺愛
・好きキャラをいじめ愛でるひねくれ者
・複数CPの絡むとかもう大好物。らぶ!
・設定フェチ。勝手に細かい裏設定を偽造して自家発電

さらに濃ゆい版の詳細は※
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