♥ つみの、め（妹太／文）

『焼いても蒸してもイモは甘い、という常識が覆されたあの旅から』
『ずっと』

・妹太…（？）
・弱妹子
・やっぱり薄暗い



　…上記の事が大丈夫！という方は続き～よりどうぞ。

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　焼いても蒸してもイモは甘い、という太子の常識が覆えされたのは彼との旅の中でだった。


　甘い顔に似合わぬそのあざとさ。ふてぶてしさ。
　妹子があまーい笑顔で繰り出す言葉は、高確率で太子をしょんぼりさせるものばかりだ。
　山葵の葉でもかじったかのようにしみるその後味。
　…つんつんなのだ。
　あまりに言うことなすことお辛いので、イモじゃなくて、ワサビの化身なんじゃないかと言ってやったこともある。

（このワサ子が！！といった次の瞬間には空手チョップで謝らされたけど）

　そして今日も。
　甘いはずの唇は、摂政たる自分ですら流せないような狂おしい毒を吐く。


【つみの、め】



「僕は貴方を尊敬してますし、その人としての在り方だって好いてます」


　そんな言葉が何の前置きもなく妹子から飛び出した瞬間、太子は己の失態に気がついた。
（…飲ませ過ぎた………っていうかこいつ、前より酔うの早くない？！）

　最近発覚した事実。
　摂取アルコールが己の限界値を越すと、妹子の言葉からあらゆる変化球が消える。
　良くも、悪くも。

　本人も自覚はあるらしく、だから僕はよほどの事がないかぎりは無茶な暴飲はしません…と、以前から言っていたのだけれど。

　…今日はどうやら、よほどのことがあった日らしい。
　ちょっと一杯どう？なんて誘った自分をちょっと悔いた。

（確かに一回も嫌ですよ、と断らず食いついたの、おかしいなとは思ったんだけど）

　酒によって外れたツンの蓋。
　飛び出した中身は普段は隠している、多分きっと本音だ。
　少しいびつな凹凸のついた、けれど若いてのひらが太子の右手をぎゅうと握った。

（…普段だったら手汗だなんだと触れもしないくせに）

「僕はあなたの背を守る盾であり、あなたの道を開く矛でありたいんです」
「えぇええ…矛盾してるぞ、妹子。例えが例えだけに」
「人なんてそういうものでしょう！！」

　力説と共に、あいている手のひらで胸倉につかみ掛かってくる。
　ひい、と反射的にのけぞった太子をじっと見据える妹子の目は、酔っているクセに、淀みも揺らぎも迷いすらなかった。


「僕は貴方だから。そんな貴方だから、護りたいんですよ。この身に引き換えたって構わないくらいに」
「………最後のは嬉しくない」
「でも、事実です」

　こういう時ばっかり素直に、随分とごつごつした言葉ながらも本音を伝えて来る。
　まっすぐ、誠実に。
　至近距離で放たれる妹子の言葉をゆっくりと脳内で噛み砕いてみれば、ああ成る程もしかして、と太子の脳裏にひとつの可能性が思い当たって。
　嬉しくない、との太子の言葉を聞いてからしかめっつらになったままのの妹子の頭を、仕方ないなぁとくしゃりと撫でてやった。


「……もしかして。なにか、私に関する嫌な話でも聞いちゃった系か？」
「……………」
「まあ、言いたくないなら聞かないけどさ。お前が気に病むことないんだからな」
「…………っ！」

　色素の薄い瞳に宿っていた、怒りとやるせなさの正体は知らない。
　けれど、自分のために憤ってくれているのはわかってしまった。
　太子、太子とうわごとみたいに呼ぶ妹子にひとつひとつ返事をして。
　かすれた声で名前をよばれて、泣きそうになった。


　これは上司冥利につきる、忠実な忠誠心。
　そして何より、彼のやさしさだ。



（ああ、でも私は、お前のそれが愛じゃないことが他のなによりも一番辛いよ）



　それでもお前が望むなら、と出来うるがきりにくしゃくしゃに笑ってやる。
　その優しさも。
　その都度生えるこの育たない芽も、一緒に摘み取ってきちんと食べてやろうじゃないか。

（焼いても蒸してもイモは甘い、という常識が覆されたあの旅から）
（私はそんな罪をもうずっと積み重ねている）



ＥＮＤ



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　敬愛と恋慕の違い。
　罪づくりな芽をまきちらすお芋。
　妹←太というかむしろ世間では太→妹というのかもしれない、これ。

　実はこっそり「とける、春」のアナザーです。
（こっそり反応をたくさんいただけたので、その嬉しさと感謝を還元…したかった）
（でも設定が設定なのでこうなる）

H22.4.19
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