※はじめましての方は『※はじめに』をご一読下さいませ(心の自己防衛)
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それに気付いてしまってから、何だか自分がのぞき魔にでもなったかの様で。最近、それが少しだけ後ろめたい。
楽しい時間に、いつも小さなくぼみを残していくその罪悪感。
(見え過ぎても聴こえ過ぎても良くないって事、嫌って程知ってるのになぁ)
けれど気付かない振りをするには、二人はあんまりにも似すぎていた。
「…でさぁ、そしたらあの子そんなこと言うんだよ!ひどいと思わない?!」
「……いや、それは秘書が正しいでおま」
「君までオレを変態呼ばわりするの?!」
「ちょ、ファスナー上まで上げるのやめんしゃい!!絞まる!!!」
そんなじゃれあいながらの談笑もひとしきり終わり、少し一息。
ぺたりと地面に腰を下ろしたまま、付かず離れずな拳二つ分の距離で心地よい沈黙に身を預けていると、そういえば、と思い出したように男が呟いた。
「…いつのまにかさ、陽射しは随分あたたかくなったね」
ぽつりと男が零した言葉に、改めて太子は景色を見渡した。
ひらひらと時折目の前を舞い遊ぶ白は、雪ではなくて紋白蝶。
出会ったあの頃は冷たい氷で覆われていたあの池でも、きっと今頃、舞い落ちた花びらが水面をするすると滑っているだろう。
「…まあそりゃあ、そうさ」
今はもう春だもの。と言葉を返して。
ふと、いつまでこの時間は続くのだろうかと、今になって初めて疑問に思った。
「…なあなあ。私は、お前といると楽しいぞ?」
「オレだって、君といると楽しいよ?」
「…うん」
楽しくて楽ちん、触れそうで触れない。そんな踏み込まない間柄がとても好きだ。
このままでいられたらいいのにと思う反面、なんとなく感じている互いの居場所の違い。
飲みこんだ『けれど』で続くその先をごまかすみたいに、おりゃあとおどけた仕草で抱き着いた。
「おわっ、どうしたの?」
「んー…親愛表現でおま!」
「……ふふ、それは嬉しいなぁ」
向き直って、ぎゅううっとしがみつく。
彼はどこぞの誰かみたいに引きはがそうとしたりしないし、カレー臭い!などという酷い事も言わない。
むしろノリノリで抱き返してくれる腕は、しなやかでたくましい筋肉…というよりは細くて白くて骨張っていて。
やっぱり自分に似ているなぁと太子はぼんやり思った。
「……あ」
「へ?」
ふっ、と。気の抜けた声と共に、互いにつりあわせるようにかけていた力が、急に男からすとんと抜けた。
それにより重心が変わり、彼を抱えたままうっかり前のめりに傾いてしまった太子は、慌てて地面に手を着いて彼を押し潰すのを留まった。
「あわわわ!なんじゃいなんじゃい!びっくりした!!」
「…いや……青が…」
「は?あお?」
「…あー…いや何でもない……っていうか…とりあえずオレからどこうよ、きみ!」
「あ。そうだった」
まるで押し倒したみたいな姿勢に、すまんすまん、と照れながら男の上からどこうとして。
今度は太子が間の抜けた声を上げて固まる番だった。
「あっ!」
「え?…おーい?ちょっと?」
何やら呼び掛ける男の声も無視し、ひたすらに見つけたソレを凝視する。
てのひらで押し潰した雑草達の中、太子がもたらした災難を逃れるように小指と薬指の隙間から生えたそれ。
クローバーだ。
四つ葉の。
(うっわあ…どうしよう!やぁっと、見つけたでおま…!)
この場所に通いつめて早数日。蘇るのは、いつぞやの部下の暴言。
今年はなかなか見つからないんだお前も探せ!と四つ葉探しを頼んだ際に、とある部下に言われた、
『アンタは葉っぱにも嫌われるんですね』という暴言。
これでやっと汚名を返上できるじゃないか。
脳内でぐるぐる自問自答する。
(摘むべき?やっぱり摘んで見せびらかすべきか??)
(でもこれだけじゃあ足りないよな?……もっと探して……いやいや、っていうか落ち着け、興奮しすぎだぞ私)
よし、調度いい相手もいるしまずは相談しようそうしよう、と、ようやくループする思考から抜け出して視線を彼へとずらす。
「おーい……?」
「…………」
するとそこには、先ほどまでの太子と同じ様に黙り込んでしまっている彼の姿があった。
(……ん?どかなかった上に無視しちゃったから、拗ねたのか?)
怒らせちゃうのは、嫌だなぁ。そろそろと顔色を伺う。
けれどそこに見たものは、いつもの微笑みでも拗ねた表情でもなく。
微かな苦みを無理矢理しまい込んだようにいびつな、無表情だった。
男の目線は太子を通り越しその先にある何かを見つめている。
泣きだす前の空みたいに陰った眼差しで、じっと。
(………空?……ああ、空だ)
(空の、青だ)
『とても綺麗な碧なんだ。海よりもうちょっと薄いし、今日の空の青ともちょっと違うんだ。
…なかなかあの色を例えるものが見当たらないんだけどね』
確か、お互いの部下の容姿の話題になった時だった。そう言って、説明に困ったように苦笑した彼を思い出す。
…ああ、きっと。
彼はこの鮮やかな青の中に、例の、空よりも澄んだ碧を瞳に宿しているという彼の秘書の面影を見てしまったのかもしれない。
春の、爽やかに晴れた空の色。
そうか、この青が。
自然物に恋しい人をついつい重ね見てしまう。
それは一見、随分と乙女思考で可愛らしい仕種だけれど、それは微笑ましくも切ない発作を伴う、難儀な感情だ。
(……そういう変化を目敏く見つけちゃうのが良くないんだよな…私)
そう反省する反面、でもわかっっちゃうんだもんなぁ、と苦笑して。
(……うん?いや…それってまるで………あれ?)
(それもわかっちゃうの、私?)
気付いてしまったその事実が、呼び水になる。
頭の中と、心の底でじわり。
綺麗に蓋をした、氷で閉ざしたはずの水たまりの中身が染み出した気がした。
開いてはいけない。見てはいけないからと沈めた物質の輪郭が、ぷかりと浮かんで、ぼんやり見えてくる。
慌てて、それに抗うように四つ葉から視線を反らすけれど、逸らした先に目に付くのもやっぱりあの緑の葉っぱの群集で。
なんだかもういろいろと手遅れだった。
(私は分かってしまったんだ。彼は、この空に彼の愛し子の残像を見ていたのだと)
(じゃあ…私は。さっき……この四つ葉に、何を見ていた…?)
毎日のように足を運んでいたお気に入りの緑の絨毯。
無意識にちらついたのは赤だった。
いつぞや言われた、アンタは葉っぱにも嫌われるんですねと言われた言葉を、実はずっと気にしていた自分。
(だって。にも、って何だよ、『も』って)
だから見返してやろうと思った。
もしかしたら……その『にも』の片割れである四つ葉を見つけたら、もう一つの何かを覆せる気がしたのかもしれない。
至った結論に思わず全身から力が抜けて、重力に抗うように突き立てていた腕がへたりと地につきそうになった。
(いや、駄目だ。ここで認めたら私、何のために、ここまで…)
何とか踏み止まって、ふるりとかぶりを振って雑念を払おうとする。
けれどその悪あがきも結局、ふいにこちらに伸びてきた手の平に両頬を柔らかく挟まれたことで阻まれてしまった。
「…………!」
ぐい、と正面向きに固定される顔。
いつのまにこちらを見つめていた赤い瞳に視線が絡み取られて、ぶわりと本格的に感情が染み出した。
至近距離だからこそ、なおさらによく見えてしまった。
そうして、気が付いてしまった。
男が瞳と心に飼っていたものは、太子と同じ種類の淋しさと恋慕。
それは、お互いにではない別の誰かへ向かう矢印だ。
けれど自分の矢印が向かう先には気付きたくなくて、認めたくなくて。
太子は男の感情にばかり目を凝らすことで、それを無意識にごまかし続けていたのだ。
そしてそれは、全てがお互い様だった。
「……酷いよ、お前」
「君だってそうだ」
じっと見つめ合っての非難は結局、お互い様がめぐりめぐった自業自得。
それはもう、まるで合わせ鏡のようだった。
(おたがい、互い違いに自爆を見せ付けあって、自滅とか。……こんなの、あんまりだ)
ひどく引き攣った笑みで、物言いたげにこちらを見つめる彼。
きっと彼の目に写る自分も同じような顔をして彼を見つめているんだろう。
「……だってさあ」
「何さ」
「だって、私…そんなに、強くないんだ」
「……オレだってそうだよ」
添えられたままの手の平に引き寄せられて、今までで一番の至近距離で見つめ合う。
こんな少しの人肌で、溶けて開いてしまうほどに弱り切った虚勢。
勇気も覚悟もなくて、ないがしろにしていた気持ち。
そしてそれはゆるやかな重力に逆らえず、風になぶられ落ちる花びらのように遂にふわりと落ちてしまった。
(他人の温度越しに思い知らされるだなんて。なんて似たもの馬鹿なんだか、私たち)
(…こんなにも、好きだったんだなぁ)
静かに音もなく触れ合った唇に、もう知らないふりが出来ぬことを悟る。
この薄い膜の下には、淋しい寂しいが詰まっている。
さびしくて苦しくてせつなくて、でもやっぱり愛おしい、そんな春色のの夢。
「…オレさ、閻魔大王っていうんだ。名前」
「…へぇ。そっか、閻魔か。じゃあ私のことは太子でいいぞ」
「…うん、実は知ってた。閻魔様だからね」
「…ずるいなあ」
何かの最終確認みたいに、はじめて互いの名前を告げて。
そうしてまた、いつものようにくすくす笑い合う。
それが二人の、秘密の時間の始まりの合図だった。
(責任は、取らなくちゃいけないと思うんだ)
(蓋を壊した責任を、お互いに)
そろそろと、どちらともなく顔を近づける。
二人考えていることはきっと一緒だった。
青空を見上げて、四つ葉を見下ろす。
それはあんまりにも似すぎていた二人の秘密の逢瀬に、約束が生まれた瞬間だった。
溶けたのか、溶けていたのか。
あるいは溶かしてしまったのか。
(いまにも溢れそうな感情は、かりそめのフタで塞ぎあおうか)
(…せめて、この春が静かに終わるその日が来るまでは)
END
+++++++++++++
(人が春と名付けたこの感情は、必ずしも実るとはかぎらないのだから)
……というわけで、うちの太閻太がいちゃいちゃきゃっきゃな関係に至るまでの薄暗い設定的なお話でした。
だいぶ、ぎっちり詰め込み過ぎな駆け足感になってしまいましたが…汗(実は、4/1四月馬鹿企画に向けてのお話でした(太閻太始めました!な)
(その慌ててた感がでております)
自分の感情を認めず見ない振り→認めて開き直るの図。
ただし、部下への恋心が実ることはないと勝手に諦めきってるので大変不毛です。ちょっと灰色上司。
でも…そんなズルくて臆病で不器用な二人もとても愛おしいと思うのです。
…夢見すぎで、すいません!
こんな太閻太……ありでしょうか?(びくびく)
ちょっと特殊な話にもかかわらず、ここまでお読みいただき有難うございましたv
H22.4
それに気付いてしまってから、何だか自分がのぞき魔にでもなったかの様で。最近、それが少しだけ後ろめたい。
楽しい時間に、いつも小さなくぼみを残していくその罪悪感。
(見え過ぎても聴こえ過ぎても良くないって事、嫌って程知ってるのになぁ)
けれど気付かない振りをするには、二人はあんまりにも似すぎていた。
「…でさぁ、そしたらあの子そんなこと言うんだよ!ひどいと思わない?!」
「……いや、それは秘書が正しいでおま」
「君までオレを変態呼ばわりするの?!」
「ちょ、ファスナー上まで上げるのやめんしゃい!!絞まる!!!」
そんなじゃれあいながらの談笑もひとしきり終わり、少し一息。
ぺたりと地面に腰を下ろしたまま、付かず離れずな拳二つ分の距離で心地よい沈黙に身を預けていると、そういえば、と思い出したように男が呟いた。
「…いつのまにかさ、陽射しは随分あたたかくなったね」
ぽつりと男が零した言葉に、改めて太子は景色を見渡した。
ひらひらと時折目の前を舞い遊ぶ白は、雪ではなくて紋白蝶。
出会ったあの頃は冷たい氷で覆われていたあの池でも、きっと今頃、舞い落ちた花びらが水面をするすると滑っているだろう。
「…まあそりゃあ、そうさ」
今はもう春だもの。と言葉を返して。
ふと、いつまでこの時間は続くのだろうかと、今になって初めて疑問に思った。
「…なあなあ。私は、お前といると楽しいぞ?」
「オレだって、君といると楽しいよ?」
「…うん」
楽しくて楽ちん、触れそうで触れない。そんな踏み込まない間柄がとても好きだ。
このままでいられたらいいのにと思う反面、なんとなく感じている互いの居場所の違い。
飲みこんだ『けれど』で続くその先をごまかすみたいに、おりゃあとおどけた仕草で抱き着いた。
「おわっ、どうしたの?」
「んー…親愛表現でおま!」
「……ふふ、それは嬉しいなぁ」
向き直って、ぎゅううっとしがみつく。
彼はどこぞの誰かみたいに引きはがそうとしたりしないし、カレー臭い!などという酷い事も言わない。
むしろノリノリで抱き返してくれる腕は、しなやかでたくましい筋肉…というよりは細くて白くて骨張っていて。
やっぱり自分に似ているなぁと太子はぼんやり思った。
「……あ」
「へ?」
ふっ、と。気の抜けた声と共に、互いにつりあわせるようにかけていた力が、急に男からすとんと抜けた。
それにより重心が変わり、彼を抱えたままうっかり前のめりに傾いてしまった太子は、慌てて地面に手を着いて彼を押し潰すのを留まった。
「あわわわ!なんじゃいなんじゃい!びっくりした!!」
「…いや……青が…」
「は?あお?」
「…あー…いや何でもない……っていうか…とりあえずオレからどこうよ、きみ!」
「あ。そうだった」
まるで押し倒したみたいな姿勢に、すまんすまん、と照れながら男の上からどこうとして。
今度は太子が間の抜けた声を上げて固まる番だった。
「あっ!」
「え?…おーい?ちょっと?」
何やら呼び掛ける男の声も無視し、ひたすらに見つけたソレを凝視する。
てのひらで押し潰した雑草達の中、太子がもたらした災難を逃れるように小指と薬指の隙間から生えたそれ。
クローバーだ。
四つ葉の。
(うっわあ…どうしよう!やぁっと、見つけたでおま…!)
この場所に通いつめて早数日。蘇るのは、いつぞやの部下の暴言。
今年はなかなか見つからないんだお前も探せ!と四つ葉探しを頼んだ際に、とある部下に言われた、
『アンタは葉っぱにも嫌われるんですね』という暴言。
これでやっと汚名を返上できるじゃないか。
脳内でぐるぐる自問自答する。
(摘むべき?やっぱり摘んで見せびらかすべきか??)
(でもこれだけじゃあ足りないよな?……もっと探して……いやいや、っていうか落ち着け、興奮しすぎだぞ私)
よし、調度いい相手もいるしまずは相談しようそうしよう、と、ようやくループする思考から抜け出して視線を彼へとずらす。
「おーい……?」
「…………」
するとそこには、先ほどまでの太子と同じ様に黙り込んでしまっている彼の姿があった。
(……ん?どかなかった上に無視しちゃったから、拗ねたのか?)
怒らせちゃうのは、嫌だなぁ。そろそろと顔色を伺う。
けれどそこに見たものは、いつもの微笑みでも拗ねた表情でもなく。
微かな苦みを無理矢理しまい込んだようにいびつな、無表情だった。
男の目線は太子を通り越しその先にある何かを見つめている。
泣きだす前の空みたいに陰った眼差しで、じっと。
(………空?……ああ、空だ)
(空の、青だ)
『とても綺麗な碧なんだ。海よりもうちょっと薄いし、今日の空の青ともちょっと違うんだ。
…なかなかあの色を例えるものが見当たらないんだけどね』
確か、お互いの部下の容姿の話題になった時だった。そう言って、説明に困ったように苦笑した彼を思い出す。
…ああ、きっと。
彼はこの鮮やかな青の中に、例の、空よりも澄んだ碧を瞳に宿しているという彼の秘書の面影を見てしまったのかもしれない。
春の、爽やかに晴れた空の色。
そうか、この青が。
自然物に恋しい人をついつい重ね見てしまう。
それは一見、随分と乙女思考で可愛らしい仕種だけれど、それは微笑ましくも切ない発作を伴う、難儀な感情だ。
(……そういう変化を目敏く見つけちゃうのが良くないんだよな…私)
そう反省する反面、でもわかっっちゃうんだもんなぁ、と苦笑して。
(……うん?いや…それってまるで………あれ?)
(それもわかっちゃうの、私?)
気付いてしまったその事実が、呼び水になる。
頭の中と、心の底でじわり。
綺麗に蓋をした、氷で閉ざしたはずの水たまりの中身が染み出した気がした。
開いてはいけない。見てはいけないからと沈めた物質の輪郭が、ぷかりと浮かんで、ぼんやり見えてくる。
慌てて、それに抗うように四つ葉から視線を反らすけれど、逸らした先に目に付くのもやっぱりあの緑の葉っぱの群集で。
なんだかもういろいろと手遅れだった。
(私は分かってしまったんだ。彼は、この空に彼の愛し子の残像を見ていたのだと)
(じゃあ…私は。さっき……この四つ葉に、何を見ていた…?)
毎日のように足を運んでいたお気に入りの緑の絨毯。
無意識にちらついたのは赤だった。
いつぞや言われた、アンタは葉っぱにも嫌われるんですねと言われた言葉を、実はずっと気にしていた自分。
(だって。にも、って何だよ、『も』って)
だから見返してやろうと思った。
もしかしたら……その『にも』の片割れである四つ葉を見つけたら、もう一つの何かを覆せる気がしたのかもしれない。
至った結論に思わず全身から力が抜けて、重力に抗うように突き立てていた腕がへたりと地につきそうになった。
(いや、駄目だ。ここで認めたら私、何のために、ここまで…)
何とか踏み止まって、ふるりとかぶりを振って雑念を払おうとする。
けれどその悪あがきも結局、ふいにこちらに伸びてきた手の平に両頬を柔らかく挟まれたことで阻まれてしまった。
「…………!」
ぐい、と正面向きに固定される顔。
いつのまにこちらを見つめていた赤い瞳に視線が絡み取られて、ぶわりと本格的に感情が染み出した。
至近距離だからこそ、なおさらによく見えてしまった。
そうして、気が付いてしまった。
男が瞳と心に飼っていたものは、太子と同じ種類の淋しさと恋慕。
それは、お互いにではない別の誰かへ向かう矢印だ。
けれど自分の矢印が向かう先には気付きたくなくて、認めたくなくて。
太子は男の感情にばかり目を凝らすことで、それを無意識にごまかし続けていたのだ。
そしてそれは、全てがお互い様だった。
「……酷いよ、お前」
「君だってそうだ」
じっと見つめ合っての非難は結局、お互い様がめぐりめぐった自業自得。
それはもう、まるで合わせ鏡のようだった。
(おたがい、互い違いに自爆を見せ付けあって、自滅とか。……こんなの、あんまりだ)
ひどく引き攣った笑みで、物言いたげにこちらを見つめる彼。
きっと彼の目に写る自分も同じような顔をして彼を見つめているんだろう。
「……だってさあ」
「何さ」
「だって、私…そんなに、強くないんだ」
「……オレだってそうだよ」
添えられたままの手の平に引き寄せられて、今までで一番の至近距離で見つめ合う。
こんな少しの人肌で、溶けて開いてしまうほどに弱り切った虚勢。
勇気も覚悟もなくて、ないがしろにしていた気持ち。
そしてそれはゆるやかな重力に逆らえず、風になぶられ落ちる花びらのように遂にふわりと落ちてしまった。
(他人の温度越しに思い知らされるだなんて。なんて似たもの馬鹿なんだか、私たち)
(…こんなにも、好きだったんだなぁ)
静かに音もなく触れ合った唇に、もう知らないふりが出来ぬことを悟る。
この薄い膜の下には、淋しい寂しいが詰まっている。
さびしくて苦しくてせつなくて、でもやっぱり愛おしい、そんな春色のの夢。
「…オレさ、閻魔大王っていうんだ。名前」
「…へぇ。そっか、閻魔か。じゃあ私のことは太子でいいぞ」
「…うん、実は知ってた。閻魔様だからね」
「…ずるいなあ」
何かの最終確認みたいに、はじめて互いの名前を告げて。
そうしてまた、いつものようにくすくす笑い合う。
それが二人の、秘密の時間の始まりの合図だった。
(責任は、取らなくちゃいけないと思うんだ)
(蓋を壊した責任を、お互いに)
そろそろと、どちらともなく顔を近づける。
二人考えていることはきっと一緒だった。
青空を見上げて、四つ葉を見下ろす。
それはあんまりにも似すぎていた二人の秘密の逢瀬に、約束が生まれた瞬間だった。
溶けたのか、溶けていたのか。
あるいは溶かしてしまったのか。
(いまにも溢れそうな感情は、かりそめのフタで塞ぎあおうか)
(…せめて、この春が静かに終わるその日が来るまでは)
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(人が春と名付けたこの感情は、必ずしも実るとはかぎらないのだから)
……というわけで、うちの太閻太がいちゃいちゃきゃっきゃな関係に至るまでの薄暗い設定的なお話でした。
だいぶ、ぎっちり詰め込み過ぎな駆け足感になってしまいましたが…汗(実は、4/1四月馬鹿企画に向けてのお話でした(太閻太始めました!な)
(その慌ててた感がでております)
自分の感情を認めず見ない振り→認めて開き直るの図。
ただし、部下への恋心が実ることはないと勝手に諦めきってるので大変不毛です。ちょっと灰色上司。
でも…そんなズルくて臆病で不器用な二人もとても愛おしいと思うのです。
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自己紹介:
名:べに釦(べに ぼたん)
性:凹
血:B
誕:聖チョコ祭り前日
・本能のままに生きる20代の社会人(斜怪人?)
・基本的に人見知りチキン
・下手の横好きな文字書き。落描きもする
・マイナー/雑食/熱しにくいが火が点くと一瞬。そして永い
・ギャップもえ。基本的に受けっ子さん溺愛
・好きキャラをいじめ愛でるひねくれ者
・複数CPの絡むとかもう大好物。らぶ!
・設定フェチ。勝手に細かい裏設定を偽造して自家発電
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